『科学スケッチ』は何のためにやるのですか?
『見る』ことは誰でもやっているのではないんですか?
『見る』ことは難しいことです。普段に眺めていて、よく知っているつもりの「もの」を、その「もの」を知らない人に説明しようとすると出来ないことがに気がつきます。図で示そうとしても描けません。
なぜそんなことが起きるのでしょうか?
漫然と眺めている状態は、「見れども見えず」 の状態です。
『よく見る』にはどうしたら良いんでしょうか?
『よく見る』ために、簡単で効果的な方法は『描く』こと。描くために見ることが『よく見る』ことにつながる。『スケッチ』することがよく見ることになります。
『スケッチ』するのはむずかしくありませんか。
植物や動物の事実をスケッチする『科学スケッチ』は、美術や芸術ではなく、誰にでもできる技術です。植物や動物に共通すること、違っていることを観察し、描きやすい順序で正確に描いていけばできます。
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具体的には、どうスケッチすればいいのですか?
最初によく見ることです。
植物なら、花の形や大きさ、茎と花の関係、葉の形やつき方を見、花の部分の構成、茎の特徴、葉の特徴を見ることです。
植物をよく見るというのは、なにが違うかをさ がすこと。違いを見るためには、植物に共通するものは何かを知っておくほうが探しやすいと思います。
葉柄(ヨウヘイ) |
葉の柄の部分 |
葉身(ヨウシン) |
葉の平らな部分 |
葉辺(ヨウヘン) |
葉のヘリ |
全辺(ゼンペン) |
ヘリに歯がない |
単葉(タンヨウ) |
葉が1枚 |
複葉(フクヨウ) |
小葉が複数枚ある葉 |
小葉(ショウヨウ) |
複葉の中の1枚 |
対生(タイセイ) |
葉が節に向き合ってつく |
互生(ゴセイ) |
葉が節に1枚づつつく |
輪生(リンセイ) |
葉が節をはさんで3枚以上つく |
根生(コンセイ) |
葉が根ぎわにつく |
束生(ソクセイ) |
葉が節に何枚もつく |
托葉(タクヨウ) |
葉の柄の元に付く小さい片 |
ガク(ガク) |
花の外側のカバー |
花弁(カベン) |
花の内側のカバー |
花茎(カケイ) |
花だけつく茎 |
葯(ヤク) |
雄しべの花粉が入っている |
花柱(カシン) |
雄しべの棒状の部分 |
子房(シボウ) |
雌しべのふくらむ部分 |
柱頭(チュウトウ) |
雌しべの上端 |
頭花(トウカ) |
柄のない花の集合が1 つの花に見える |
苞(ホウ) |
花の元に有る小さい葉片 |
総苞(ソウホウ) |
花のつく基部に苞葉が多数つくとき |
このように植物も『よく見る』といろいろなことが見えてきます。この見えてきたことを『描く』ことになるのです。
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ただ書きなさいといわれても、美術で絵を描くこととどう違うのですか。
なにを描くのが必要で、どんな手順で描くのかがわかりませんが?
3月から5月にかけて道端や川沿いでよく出会う『西洋タンポポ』を描いてみましょう。
タンポポを『よく見る』と、まず上のほうに花がついています。
花の下に葉のない茎がのびていて、葉は地面からじかに地を這うように広がっています。
頭花は細長い舌状花が小さくまとまっています。頭花の周りを細い総苞が囲んでいて、その外側を二重に総苞が囲んでいます。
総苞の真中から茎がまっすぐにのび、根生葉が広がっています。
西洋タンポポの葉は菊の仲間に共通の特徴で、羽状に裂けています。葉の先端のややトガっていて裂けているところ、中央にハッキリとした葉脈がとおっています。広い葉には細い葉脈が観察できます。ルーペで見ると細かい毛のようなものが見えます。
芸術としてのスケッチは、主観を表現するのですから、時には正確さを無視することもあります。表現と鑑賞との主観の相互刺激が芸術であり、事実の伝達が科学スケッチです。
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花を描くときの共通原則は、「上から下に」、「手前に見えているものから奥へ」です。西洋タンポポも、花から花茎、根生葉へと描きます。
部分を描くときは、特徴を決めているものと、部分のつなぎの部分から描くとやりやすいと思います。
西洋タンポポの花は、二重の総苞と密集する 舌状花です。側の総苞は下向きにひらいています。内側の総苞は花を包むようにたっています。舌状花は中央が密集しています。まず部分を描いてみましょう。
花は、外側の下向きに開いている総苞を描き、内側のたっている総苞を描きます。花の中央に密集する舌状花から描き周囲へと描いていきます。
花茎を総苞の下にのばしていきます。
西洋タンポポの葉は、一番手前のよく見えているものを描く.先端のとがっていて裂けている葉と、中央の葉脈を描き、特徴である、羽状に裂けた葉の先の部分を描きます。そして裂けている谷の部分を描き、線をつなぎます。
科学スケッチとしての植物スケッチは、部分や全体の事実を正確に表現することが目的ですから、全体の形や生え方の特徴、部分の形の特徴や、部分と部分の関係を表現することが必要です。
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次に、街でよく見かけるスズメを描いてみましょう。
スズメの「眼とくちばし」「頭の形」「背中の形と尾羽」「腹の形」の順序で描きます。眼とくちばしの周りのスズメらしい顔の部分、背中の内側の羽について輪郭を描き、重なり合った羽を見えている部分から奥へと描きます。
同じように見えるスズメにも、スケッチをすると、二種類が人のそばに居ることが発見できます。タマネギのようにいつも転がっているものも科学スケッチの対象です。
外観をスケッチするのも面白いですが、このときは半分使った余りが転がっていたので描いてみました。
断面にタマネギを特徴付ける原因が見えています。層状に重なった身、頭の部分で集まって上に伸びようとして終わっている身、身の出発点の部品からヒゲ根がのびています。
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スケッチの道具はどんなものを使えばいいのでしょうか?
鉛筆を使うこともありますが、一様な線がひける製図用ペンを使うことが多いです。
西洋タンポポ・タマネギ・スズメは0.18mm の製図ペンで描いています。ペンは2 種類の線がひけると便利です。
科学スケッチは、事実の説明が目的なので影はつけないのが普通です。
描く対象によって、太目の線が似合うものと、ごく細い線が似合うものなどがあるようです。
紙はケント紙を使うと彩色するときに具合が いいでしょう。
彩色するなら、透明水彩がよいと思います。事実を記録した部分が見え、さらに色が表現できます。
色は描く対象によって必要な色が異なります。必要な色を自分で選びます。
筆記具 |
製図ペン、鉛筆、色鉛筆、面相筆:小・中 |
消耗品 |
水彩絵の具、ケント紙、製図インク |
小物 |
金属製パレット、小皿、筆洗い、筆拭き |
上記の用具が思いつきます。
個人的な趣味ですが、ドイツ製のステッドラー、ファーバーカスタム、ロットリングなども描きやすいと思います。メーカーと太さで少し違いますが、3,000円から4,000円程度です。他にドイツ製のリフォーム、日本製のプロトグラフ(トンボ鉛筆)などもあります。
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「科学スケッチの方法」のページには、『理科の観察スケッチには影をつけない』とありましたが、私は小学校の時に、影は点描でつけると先生に習いました。教科書の図は点描で影がつけられて描いてあります。「点描で影をつける」のはいけないんですか?(2001年7月)
科学スケッチの主な目的は、「形」を表現することにあります。
一方、スケッチに影をつけることの意味は、「立体」としての表現、奥行、厚み、前後を表現することにあります。
影をつけることの欠点は、「形があいまいになる」ことにあります。面の質感の表現と、影の表現が混同されてしまいます。【図1】
繰り返しますが、科学スケッチの主な目的は、「形」を表現することにあります。
長さ、厚さなどの大きさは「数」として表現することが正しいです。【図2】「図」と「スケッチ」と「数」で記述することが科学の観察結果のデータです。
影をつけることは『立体的に見える』ことがただ1 つの利点であり、それが観察データの質が劣化するという大きな欠点を超えることはありません。
約束として、「形」を表現し、「影」は表現されていない、とするのです。
もし、どうしでも影を表現したければ、「影なしの図」と「影つきの図」両方が必要です。そして、影つきの図には必ず光の方向を記します。【図3】
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身近な植物をスケッチしてみましょう。
こんな特徴をよく観察してみよう
- 葉:
- 形、すじ(葉脈)、葉のもと(基部)の形、つき方(葉序)、枚数 など
- 茎:
- 茎の様子(直立しているもの、巻きついているもの、地面を這うもの)、茎の形、毛の様子 など
- 花:
- 花びらの枚数(一つ一つバラバラになるもの、くっついているもの)、花のつくり、花びらの形、つき方(花序) など
アルストロメリア
ビオラ
ヒマワリ
ユリ
バラ
パンジー
菜の花
チューリップ
絵と文章:PIC前田利民・久米裕美